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Q-tipが語るトップ3ラッパー(all time)

 

   先日youtubeでQ-tipが「Top 3 MCs All Time」(史上最高のMC3トップ3)を選出している動画を見つけた。こういうリリシストの格付けの話となると、有名なのはKool Moe Deeの「There's a God On the Mic」である。雑誌Blastによる部分的な紹介によれば、Kool Moe Deeはリリシストを以下のように分類しているという。
 
 

系統 黄金期(golden age) ニュースクール期
正統派 Rakim Nas
プレイヤー型 Big Daddy Kane Jay Z
キャノン型 Krs-One The Notrious Big


 


 この表のような分類に違和感を持つヒップホップファンは少ないだろう。K Dub Shineが言うように、Kool Moe Deeはヒップホップを分析する目を持っていて、この本に書かれていることは概ね的を射ているということだと思う(ケーダブシャインと違い、私はこの本を読んでいないので、間接的にしか知らないが)。

一方でQ-tipが挙げたトップ3MCとは以下の顔ぶれになる。

  

 やはりRakimは基本ということだろうか。初期2作品はパンチライン連発ということで、Blast誌はリリシスト特 集でいくつかのラインを引用していた。Big Daddy Kaneのパンチラインは日本人にも分かりやすい巧さがあるが、Rakimは正直私には分かりにくい。そこで私は私の父(純アメリカ白人。某私大の英文学教授)に有名な、"Let the rhythm Hit Em"を聴いてもらい、判断を求めた。

 

 すると、予想したとおり私の父は非常に辛口であった。"It has too many Many Forced rhyme"(不自然な韻踏みが多すぎる)とのことである。さらに付言して、"Slick Rick's raps are nothing like that"(スリック・リックのラップにはそういう不自然な韻踏みは全くない)。


 

 さて、Q-tipが第2に挙げたのはスリック・リックであるが、父はこの人のリリックに関してはポジティブなことしか言わなかった。ライミングの自然さ、詩的表現の豊富さ、ストーリーテリング上の文章の流れの巧みさ、そして随所に見られるウィット。そのすべてが、非ヒップホップファンへのアピールとなるのだろう。

  

 逆に言えば、Slick Rickのリリックというのはコアなヒップホップファンにしか通じないような価値観(たとえばNasのillといった価値観)やスラングが多用されておらず、平易な言葉で書かれているということだろう。

 

 平易な言葉で高度な詩が書ける。スリック・リックは逮捕されていなければ、今頃ラップ界の国民的詩人だったかもしれない。


 Q-tipが選出した3人目はBiggieであった。

 

 これは正直私にとっては意外だった。Q-tipは何度かNasを文字通り激賞してきた人だし、Nasの名前が挙がることと思っていたのだが。Q-tipとBiggie。かなり対極にある存在に見えるが、これもヒップホップ界がスキルがあれば認め合うフェアーな世界である証左だろう。(その分、スキルで認められなければDisの対象になりやすい)

 

 さてBiggieだが、コアなヒップホップファンにはもちろん、そうではない層にも受ける詩を書いてきた人である。"Juicy"のリリックは教養がある層にも受けが良いと思われる(サンプルが少ないので断定はし難いが)。Nasはヒップホップファンにしか受けないリリックを書くが、Biggieは違う。Q-tipはSlick Rickも選出しているし、コアな世界に対する“他者の目”を意識したのかもしれない。


 

 さて、Nasである。上には批判的なことを書いたが、個人的な嗜好で言えば、この中で一番好きなラッパーは断然、Nasとなる。そもそも日本人には、英語の詩をネイティブ並みに(それも教養があるネイティブ並みに)解することは、ほぼ不可能なので、誰がリリシストで誰がそうではないとか、本当は私たちにはあまり関係がない。その中でもNasはコアなヒップホップファンに響くリリックばかり書くので、日本人への影響力は絶大だと思われる。

 

 たとえば、"ill”(病んでいる)という価値観。Nasのオリジナルではないが代名詞的な哲学とっている。病んでいる詩はカッコイイのであり、そうでないのはウワベだけだ。Jay-zに対するDis曲"Ether"では、「エイズのテストを受けてみろ。お前は陰性だ」(つまり病んでいない)という言葉まで飛び出す。逆転の発想とはこのことで、素直にカッコイイと思ってしまう。

 

 しかしヒップホップのファン以外には何のことやらわからないことばかり言うし、無理やりなライミングが多すぎるという点で、高評価は得にくいと思われる。Jeru the Damajaはそれをより極端にした存在と言える。


 

 一見、ヒップホップファン以外の評価が得にくいようで、実は多くの層の共感を得るリリックを書いてきたのがKool G Rapである。Nasとは同郷のクイーンズ・ブリッジの出身であり、Nasから見れば大先輩なのだろう。

 

 Juice Crewの一員であるが、Krs-Oneに叩きのめされた"The Bridge Wars"では目立たなかった。それゆえ、Krs-Oneよりも下に見られがちなのかもしれないが、そんなことはない。むしろKrs-One以上に、多くの層に訴えかける詩を書いてきた可能性が高い(これも聴かせたサンプルが父とその友人程度で少ない。ゆえに断言はしない)。Krsが書いてきた非暴力などの価値観は、G Rapが書いたマフィアの世界の描写より、普遍的な内容であるが、ヒップホップファン以外の層に受けるか受けないかは、内容と同じぐらい詩的表現によるところが大きいのだ。

 

 私たち日本人はBlastのような雑誌に書かれたことをあまりに鵜呑みにしやすく(そのBlastはThe Sourceのほぼ受け売り)、英語表現も先入観を持った上で読むため、客観的な評価はできっこない。大してリリックを読み込みもせずに、Krs-Oneをティーチャーと呼ぶ人が多いのはその良い例だろう。

 
 

 最後にD.I.T.C.のメンバーであるO.C.について。

 

 彼のリリックは私たち日本人にとっては最も分かり易い、シンプルな形態をとったものが多い。私たちは何故死ぬのか、死ぬのならば何故生まれるのか、といった哲学の入口的な問いかけがあったり、ストレートにワックなMCをDisったりする。

 

 そのリリックは日本でいうところの、K Dub Shineのそれに近いと思う。K Dub Shine自身は和製Chuck Dを目指してきたのかもしれないが、私は政治哲学的なバックボーンが深まらないのであれば(たとえばここ数年の保守主義的な立場ならばバークを読み込む等)そろそろ政治的な内容から手を引いて、ファンの心に響く詩に専念すべきだと思う。

 

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